カネコアヤノ「光の方へ」

youtu.be

 

なんて最高なの。もっと早くに知ってたかった。

でもいつ聴いても、カネコアヤノにはいじらしい慕情が在る。

 

 

 僕だけの命 チューブのチョコレート みたいに けち臭く

 

どうしたらこんな美しい言葉を綴れるんだろう?

 

 

壊れそうだよな 僕ら

次の夜には星を見上げたい

ちっぽけだからこそ もっと勝手になれる

 

 

もっとけち臭く、もっと勝手に生きてみようかなと思った。

ひたすら最高です。

 

chara+YUKI「楽しい蹴伸び」

youtu.be

 
 
ライブ中止になっちゃって悔しいけど、
楽しい蹴伸びの美しさは変わらないからみんなに聴いて欲しい、観てほしい。
 
わたしがこのPVでたまらないなと思うのは、
2人の「手」です。手。
いろんな人生の酸いも甘いも経験して、それら全部自らの手で払い除けたり包み込んだり、その上で文字通り手に入れた自由。
しなやかにたくましく生き抜いてきた2人の生き様が見て取れるようで、見惚れてしまう。
 
それにこのサウンドワークですよ。。もう何も負けるものはない。
 
 
 
こちらはまだまだ経験不足の手だけど、noteで記録を始めました。どうぞよしなに。
 
 

aikoのプレイリスト 〜サブスク解禁に寄せて

 

 

現代の名工、邦楽界の宝、俺たちのaikoの音楽がいよいよ、サブスクリプションで解禁になりました。本当に革命だと思う。。

 

今の30代を中心に、この人の曲に心を救われていない女性はいないのではないかというくらい。それくらい日本女性(いや、男性もだな)の恋愛の拠り所となってきた巨匠ですが、

自分なんかまさにそのどストライク世代な訳で。

 

aikoの曲はどれにも必ず熱狂的なファンがついているので、

この記事では、超超超個人的な理由に基づいた好きな曲をつらつらあげていくこととします。

サブスクで本当に簡単に聴けるから、流しながら、そして歌詞を読みながら(ここ重要)ぜひどうぞ。

 

 

 

 

愛の病

愛の病

  • 発売日: 2020/02/26
  • メディア: MP3 ダウンロード

最初に出すにはあまりに有名すぎるけど、これこそaikoの真骨頂だと思うので。。

 

わたしは、aikoの楽曲は現代の演歌だと思っている。

現代にも演歌はありますが、あくまで、演歌の世界観をそのままJ-popに昇華したのがaiko、という意味で。

人を愛した女の怨念、執念、熱情、みたいなのがめらめらに積もっていて、これを演歌と言わずしてなんと表現したら良いのだろう。

石川さゆりが歌ったらまんま天城越えの世界ですよ。。

 

歌っている人のキャラクターゆえに可愛い、切ない、いじらしいのだけれど、冷静に読むとものすごい怖い歌詞なんだよね。 

 

 

「明日あなたがいなくなって 明後日心変わりして

いつか嫌いになられたら?」

あたしのこの余計な考えを今すぐとっぱらってよ

もう離しはしないと約束しなくても良いから

不安で眠れない夜 隣にいてください

今夜そうしてください

 

自分がもしこの気持ちを、不意に相手から向けられたとしたらぞっとしてしまう。

えっえっどうしたの?wってなっちゃう。ホラーだよ。

でも一直線に恋愛したらそれくらいの思いを人は心の中に滾らせてしまうし、

それを臆することなく歌えるから、この人は天下をとったのであって。

そもそも「愛の病」っていうタイトルがもうヤバい(最上級の褒め言葉です)

 

 

 

アスパラ

アスパラ

  • 発売日: 2020/02/26
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アイスは溶けてただまずいだけ

あたしの心も美味しくないわ 

 

こんな美しい歌詞があるんだと、未熟ながら感化されたことを今でも覚えている。愛を語らずして愛を歌う、それがアイスクリームだなんて、と。

中学生の頃、一番躍起になって聴いていたaikoの曲。たぶん何かのカップリングなんだけど、仲の良い友人が大好きなんだよねーとMD(!)にダビングしてくれて、それからずっと気に入っていた。

どんな時代だろうと、どの性別だろうと、この歌詞に共感しない10代がどこに居よう。

 

シンセベースの軽めの音が王道ポップス感満載で、私たち世代にとっての郷愁と切なさをさらに引き立ててくれる。

限られたMDとかCDとかテープとか、深夜のラジオとか、交換日記とか、好きな先輩だのクラスの男子だの、友達や部活の苦しさ、大人になっていく心と身体、そういうのを後生大事に抱えながら一生懸命聴き込んでいたあの頃の匂いが立ち上ってくるようで、今聴いてもぐっとくる。

「エモい」の一言では絶対まとめたくない、でもそういう頃合いの空気を、今でも吸うことができる曲。

 

タイトルが内容に全然関係ないのも良い。アスパラ。

 

 

 

帽子と水着と水平線

帽子と水着と水平線

  • 発売日: 2020/02/26
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大学の頃、一年だけaikoコピーの企画バンドをやっていた。その時に初めて演った、思い出の一曲。

そしてこの曲はライブアレンジの方が抜群に良いので、ぜひ「まとめII」の方のバージョンで聴いてほしい。

夏の爽やかさと疾走感、それをキーボードだけでこんなに美しく表現できるイントロが他にあろうか。。

 

そのバンドは、普段メタルとかをやっているゴリゴリに技巧派な先輩たちが「aikoやりたい!」となってたまたま誘ってもらったんだけれど、

演奏の上手な人たちが演るaikoは本当に本当にそれはもう本当に、音だけで酔っ払うくらい上手で格好良かったいうことを声に出して言いたい。

というか、そういう曲をはい!わたしJ-popです!みたいな顔して平然と出してくるaikoがまず凄いんだよな。

メロディーラインもアレンジも素晴らしいんです。この曲は。

 

ちなみにその先輩たちは常々、J-popの中でもaikoとジャニーズの曲はマジでかっこいいしやるのが難しい、と言っていた。

確かに。

特にジャニーズのデビュー曲は尋常でないくらいの気合いが入ってるから、アイドルソングを普段聴かないような人たちでもびっくりするような超絶リフ入ってるんだよ、みたいなことも教えてもらったりした。

そういう、よくある「その手のものを馬鹿にする人達」なんかとは全然違って、良いものを良いとちゃんとした根拠の下で言い切れる人たちと一緒にやれたことは今でも自分の財産になっている。

あと練習終わりに毎日どこかに連れて行ってくれて、みんなで作った鍋とか、夜な夜な観た幽遊白書とか東京ラブストーリーとか、初めて教えてもらった知らないお酒の味とか、洋楽とか、今思えば年齢も大して変わらなかったんだけど、もうすぐ社会人になる先輩たちと一緒に過ごす日々は、20歳そこらの自分にはあまりにきらきらした毎日だった。

そういう思い出も込みで、忘れられない曲なのかもしれない。

 

何よりこれは、歌っていて死ぬほど気持ちよかった。ライブでお客さんが絶対に乗ってくれる、不思議な浮遊感みたいなのもある曲だった。

 

女の子にTシャツ、ダメージジーンズ、スニーカー、ニットキャップ、ってのにバチバチに決まるやつ。最高。

 

せっかくなので当時、ステージにはちゃんとそれで立ちました。悔いなし。

 

 

 

 

 

彼の落書き

彼の落書き

  • 発売日: 2020/02/26
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これも、aikoバンドで演ったので個人的に思い入れのある一曲。

全体を通してテンポの取り方がものすごく難しくて、特にバンドでやると百発百中〝走る〟。でもライブDVDとか観てると本人たちのバンドもじゅうぶん走ってるので、それを狙ってやってる感もあるよなー。何よりそういう紙一重の疾走感が魅力。

 

片想いを歌わせたら天下一品、それがaikoだけれども、それにしたってこんなに苦しいのは何故。ギターのリフがまたものすごく良い。苦しすぎる。麻薬。

 

初収録アルバム「暁のラブレター」のタイトル通り、夜中を明けて行き場のないどうしようもないものすごい愛とか恋、がちゃんと音楽という形になっていると思う。

 

ちなみに暁のラブレターを聴くなら、一曲目の「熱」→「彼の落書き」の順でちゃんと聴いてください。こんなに完璧な組曲をわたしは他に知らない。

(ただサブスクだと、2曲の繋ぎ目が微妙に切れてたのが悔やまれるところ。完璧な組曲を知りたければ、是非アルバムを買ってください。本当に本当に完璧なので。しつこいようだけど。w)

 

これを聴いて帰ったあの日の朝を、今もありありと思い出す。

 

 

 

 

 

赤いランプ

赤いランプ

  • 発売日: 2020/02/26
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タイトルの由来は、当時のゲームボーイアドバンス(懐かしい、、)から。

「電池が少なくなると横のちっちゃいランプが赤くなる。

熱中していて「まだ、大丈夫やろ」って思ってやっていると、すごくいいところでブチンって切れてしまう」

ことから、ひいては恋愛の終わりかけを歌っている。

もう、こういうaikoの発想が好きなんですわたしは。。

確かにそうだ、行ける行けるまだ大丈夫、と思っているうちに、気持ちが突然切れてしまうことは往々にしてある。

 

この曲の真骨頂は、

 

たまにあたしを思い出してね

そして小さな溜息と

肩を落とし切なくなってね

 

この歌詞だと思う。ホラー②…。

このaikoaikoたる所以、女の怨念、情念よ。。すっごい気持ちわかるような気もするけど、冷静に考えるとすっごい怖い。いや冷静に考えなくても怖い。

でもこういうことを書けてしまうから、aikoのフォロワーが絶えることはないんだと思う。

 

 

 

 

シャッター

シャッター

  • 発売日: 2020/02/26
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数多くあるaikoの楽曲の中で、わたしのベスト1は恐らくこれ。

何が?と言われるとうまく言えないんだけど、とりあえず、イントロからもう優勝。

それから、この曲の歌詞自体はただの回顧と軽い意思表明でしかないのに、

なぜかこの主人公の詳細なストーリーが聴く人の脳内にちゃんと浮かんでくるという不思議現象があるように思う。

若い恋愛はいつも背伸びばかりで、ゆえに先に立たない後悔をする。そういう経験が少なからず誰にでもあるから、きっとみんなの心に物語が生まれるのだろうな。

とにかくもう絶対に戻ってこないけど、一生かけても守りたかった恋愛、その始まりから終わりまでがありありと浮かんできて、ひとりひとりの心に寄り添う。

 

時間が経って、この子はもう一度その人に会いに行くことはあるんだろうか?

会いになんかいかなくてもいいほどの上書きを、誰かと共に出来る未来でありますように。

 

30代になった今は、ふとそんなことを思った。

 

 

 

 

Loveletter

Loveletter

  • 発売日: 2020/02/26
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これを初めて聴いたのは比較的最近じゃないかな。

久しぶりにアルバムを買って聴いて、あーやっぱり良いわとしみじみ思った記憶がある。

このイントロ。イントロから苦しいって、aikoなんだよなーやっぱり。じゃんじゃんばりばりバンドサウンドに間奏のストリングス、くるくる踊り狂うaikoの画が容易に思い浮かんで心地よい。

 

この曲の歌詞は、読み進めるごとにその内実がわかっていく構成になっている。さすが。最後にちゃんと、aikoらしい結末がある。

やっぱり怨念とか、執念みたいなものが滲んでいる歌詞なんだけど、

とりあえずこれは最後の

 

ではさようなら

 

で全て勝利、みたいなところがあると思う。そのワンフレーズだけでわたしは痺れた。最高よ。

 

 

 

 

明日の歌

明日の歌

  • 発売日: 2020/02/26
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ワンフレーズで痺れたといえば、これもです。

これは歌い出しの

 

暑いっていうかこの部屋には思い出が多すぎる

 

でもうやられたーって感じだった。

ていうか、で切り返す内容が、一見全然「暑い」と関係ないんだもん。歌詞っていうか、心の声そのものなんだよなこれは。

 

アルバム「泡のような愛だった」は比較的大人な雰囲気の曲が多くて、aikoというアーティスト自体の成熟を感じた一枚でもある。

 

ちなみに初めて聴いた時はこの曲が自分にバチッと来るような人生の瞬間だったので、本当に素直に「え、これわたしのこと歌ってる?」と思ったことを覚えている。

aikoを聴いていると必ず一度はそういう経験をするから、だからaikoは、20年一線を走り続けている。

 

これはあなたの歌 嫌なあなたの歌

 

そんな風に歌える人が他にいるかね。いないんだよね。。

 

 

 

 

 

 

夢見る隙間

夢見る隙間

  • 発売日: 2020/02/26
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 前述のように「大人になったaiko」を感じる、ちょっとジャジーな一曲。

これをどう取るかは聴き手次第だと思うんだけど、アルバム「泡のような愛だった」同様、わたしはこれをリリースした前後から感じていることがありまして。。

aiko、いつから不倫とか浮気とかの曲、書くようになった?

 

aikoが大人になったのか、わたしが大人になったのかは、わからないです。

 

 

 

 

ストロー

ストロー

  • 発売日: 2020/02/26
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一番最近に聴いた曲です。

これだってさーもうさー怨念なんだよ。怖いんだよ。ていうかこれはもう、呪いなんだよね。まじない。

「君に良いことがあるように」という、ポジティブな呪いの曲なんだと思う。

一歩間違えれば危ない思想だけれど、恋愛なんてそういう、おかしなことさえも君が言えば全て善、というものなのは誰もが知る通りで。

そういう日常に潜む紙一重の幸せを、最近のaikoはよく歌う。

 

この曲の素晴らしいところは、最後の大サビです。

最後にやっと、「君に良いことがあるように」の繰り返しの呪いが溶ける瞬間がやってくる。

  

延長戦を繰り返して

やっと見えた本当の痛みは

出会った頃より悲しくて

寂しくて大切で

君に良いことがあるように

今日は赤いストローさしてあげる

 

あれ?でも気がつくと、これは120%の幸せなのだろうか?

そういう綺麗事だけでない毒っ気があるから、わたしは多分まだまだaikoの音楽を聴き続けるんだと思う。

 

 

 

 

 

心が震えた瞬間に、思い立ったたちまちに、必ず自分の心に寄り添う一曲があって、たった数タップでそれが聴けてしまう。

サブスクで気軽に享受できる幸せを噛みしめてるこの頃なのでした。

誰が何と言おうと、aikoはいつだって最高。

 

 

今泉力哉「愛がなんだ」

なんと5年以上ぶりの更新です。
5年の間にわたしは働く場所が変わり、少しだけ痩せたり太ったり、心も身体もいつの間にか身軽になったような気がして、そして30代になりました。
昔よりもずっと心置きなく、「今楽しいです」と心底言える気がする。
また好きなものだったり見聞きしたものだったり、書き留めていきたいと思います。 (ていうか何回編集してもこの冒頭部分がお豆腐みたいな□で沢山囲まれてしまうんだけど、これは何なんだ・・・だれか消し方おしえて・・・)
 
ということで、5年越しの一発目に記しておきたかった映画がこれ。
 
 
 
 
愛がなんだ愛がなんだ
  • 発売日: 2019/09/27
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直木賞作家・角田光代の同名恋愛小説を、「パンとバスと2度目のハツコイ」「知らない、ふたり」の今泉力哉監督で映画化。岸井ゆきの成田凌の共演でアラサー女性の片思い恋愛ドラマが展開する。
28歳のOL山田テルコ。マモルに一目ぼれした5カ月前から、テルコの生活はマモル中心となってしまった。仕事中、真夜中と、どんな状況でもマモルが最優先。仕事を失いかけても、友だちから冷ややかな目で見られても、とにかくマモル一筋の毎日を送っていた。
しかし、そんなテルコの熱い思いとは裏腹に、マモルはテルコにまったく恋愛感情がなく、マモルにとってテルコは単なる都合のいい女でしかなかった。テルコがマモルの部屋に泊まったことをきっかけに、2人は急接近したかに思えたが、ある日を境にマモルからの連絡が突然途絶えてしまう。
 
 
####
 
去年観た映画で、総じていちばんに面白かった作品。
キャスト発表の段階でこれは絶対観に行かなくてはと思っていて、何を隠そう、隠さなくても、主演があの、みんな大好き!岸井ゆきのちゃん!
 
わたしはこの頃から
 
戦う女 [DVD]

戦う女 [DVD]

  • 発売日: 2015/01/30
  • メディア: DVD
 
 
 
 
 
とても好きな女優さんだったので、ドラマや映画や朝ドラなんかで階段駆け上がってゆく様を観るのは本当に嬉しかった。
 
「愛がなんだ」という映画は、とにもかくにも岸井ゆきのという女優の殺人級の愛らしさだけで成立し得るような作品です。
 
 
 
 
さて。
 
恐らくこの映画を見て序盤の方で大方の人が思う感想、それは
 
「テルコ、それ愛やない。執着や」
 
 
主人公のテルコは、大好きな片思い(とも言い切れないから、テルコは余計熱を上げてしまうんだけど)の相手・マモちゃんのためならとにかく何でもしてしまう。
 
 
 
「それは愛ではなく執着」
というのは、二番手だの不倫だのといった特に訳あり恋愛をしている人に対してよく使われがちな表現ですが、
要するに純粋な愛と、
手に入らないからどうしても相手を手に入れたいと思うこと、
それらにおける奉仕の精神、尽くす手段は同じでも
想いの有り様は似て非なるものだからそんな不毛な恋愛辞めてしまいなさいよ、
ということね。
それは好きだから相手と一緒にいたいんじゃなく、
絶対に手に入らないから手に入れたいと躍起になっているだけで 世の中で言う美しき愛ではありませんよ、の意。
 
 
大方の人はそれを分かりながらこの話を見進めるから、テルコのその尽くしっぷりは見ていてすがすがしいほど痛々しい。なんならホラー。
でも報われない恋愛を経験した人なら誰だって共感してしまうまた別の怖さが、この作品にはある。
 
 
たとえば金曜の夜、もう日も変わろうとする頃合いに突然
「山田さん、メシ食った?」と電話がかかってくれば、
家で今すすり始めたカップラーメンをなかったことにして
「えーー奇遇だなー。わたしも今残業中でおなかぺこぺこなところだよ~。
仕方ないなー、一緒にごはん食べてあげるよっ」
とあたかも`わたしあくまであなたに合わせてるわけじゃないんです、なんなら合わせてあげてるくらいです'状態を装ってひょうひょうと返すテルコ。
でももちろん心の中は喜び満開ハッピーな気持ちなので、お気に入りのお洋服に着替えなおして駆け足で家を飛び出してしまう…。
 
マモちゃんが自分の方を見てくれるためなら、どんな犠牲も嘘も構わない。
というかそんなのテルコからしたら犠牲でも嘘でもなくて、ただただ好きだからやっているだけ。見返りなんて(その時は確かに純粋に)求めてなどいない。
 本人が都合のいい女と思わなければ、それはたぶん都合のいい女ではないのかもしれない。
 
この映画にはそういう、「愛すべき都合のいい女/男」が沢山出てくる。
テルコの親友で、自分に好意を向けるナカハラをただの使いっぱしりのように扱う葉子。
葉子にひどい仕打ちを受けながらも、好きで好きで仕方ないからただ傍にいられるだけでいいというナカハラ 。
マモちゃんだってテルコに対しては自分勝手極まりないけれど、やがて彼女になった(?)スミレさんには同じようなことをされている。
気づいていないのか気づかないふりをしているのか分からないけれど、みんなそういう「執着ゆえの愛情の搾取」をしたり、されたりの主従関係になっているのだよね。
 
 
結局惚れたもんの負け、と言われればそれまでだけれど、
惚れた人に同じ分量だけ惚れてもらうことはそれだけで奇跡に近い。
だからこそ、どんなにそれが一般的に間違っていようがホラーだろうが、
突き抜けるところまで突き抜けてしまえ!いけいけ!やっちゃえ!頑張れテルコ!
と、みんながテルコに自分自身を投影して。
自分が救われなかったかつての恋愛感情をそのまま託すかのように、登場人物ひとりひとりを応援してしまうから、この作品は去年の邦画の中でも大きく入場を伸ばしたのだと思う。
身につまされる、というのがぴったりの映画だった。
 
もちろんそうテルコに思えるのは、何より岸井ゆきのちゃんの愛くるしい魅力に因るところが大きいのであって、マモちゃんのクソっぷりはさすが成田凌!だし(誉め言葉です)
スミレさんなんて江口さん以外演じようがないし、葉子にしろナカハラにしろ、このキャスティングだけで本当に勝利。
隣の部屋の男女の会話を盗み聞くようなスリルをはらんだ、生々しい2人のいちゃいちゃシーンも素晴らしい。
マモちゃんのあの追いマヨネーズのシーン、なんなの…成田凌目当ての女性客全員失神するわ
 
個人的には、今泉監督作品はこういう市井の人々をつらつら描く、みたいな映画の方が好きです。じりじりと、一生懸命に生きる人の美しさ(翻って醜さ)を炙り出していてとても良かった。
 
 
 
最後に、めちゃめちゃ絶妙で、個人的に一番好きだったシーン。
この人はおそらく自分には気はないんだろう、だけどこの感じ、もしかしたらもう少し押したら行けるかもしれない。普段なら絶対できないけど、この状況なら少し大胆に自己PRしてもいいんじゃない、すがったっていいじゃん、付き合えればオールオーケーじゃん、
って勝負をかける瞬間と、その前後の会話。
不毛な恋愛の期待と絶望そのもののようで、見入ってしまった。
あそこで泣いてしまったのは自分だけではないと思う。
どうしてこんなに近くにいるのに、目の前にいるのに、自分のものにはならないんだろう。
そのひりひりした痛みが、「もういいよテルコ、そこまで行ったならとことんやっちゃえよ」と観ている者に思わせてしまう。それがたとえ報復だろうと、好きなだけやっちゃえよ、と。
 
 
いつの日か大人になりきると感じなくなってしまう苦しさに、どっぷり浸かれる愛らしい作品でした。
執着だろうとカッコ悪かろうと、好きなら好きで良いじゃん。愛がなんだ。
 
 
エンディングテーマもすごく良かったので、あわせてどうぞ。
 

 

Cakes

Cakes

  • アーティスト:Homecomings
  • 発売日: 2019/04/17
  • メディア: CD
 

 

 

 

山田詠美 「風味絶佳」

鬼のように久方ぶりの更新。
皆さんお元気でいらっしゃいましたか。わたしはすこぶる元気でした。

あいも変わらずだらだらと本とか映画とか音楽を手にしては穏やかに生かされている毎日。
久しぶりですが、何の前触れもなく本の感想を書き連ねたいと思います。



山田詠美「風味絶佳」を読んだのはもう8年くらい前(!)、ちょうど「シュガーアンドスパイス」として映画化されたとき。
あの映画はとても印象に残っていて、大変好きで未だにたまに観たくなる。
若い男の子にとっての恋愛、女性が恋人に一生求め続ける心づくし、人が人を好きでいる間に起こる悲喜こもごも。そういう全てが‘シュガー’と‘スパイス’で、その切なさをとてもよく描いているとおもうのです。あの映画の沢尻エリカの可愛さときたら!



さて、最近また思うところがあってこの本を読み返してみた。
一番好きな作品、「間食」。最高に最低な男の子の恋愛を書いていながら、読み進めるとどうしても愛おしくなってしまう。

この作品の何が素晴らしいって、恋愛したときに立ち上る‘いつくしむ、可愛がる、愛情を注ぐ’という目一杯はみだすような感情の表現。本当に上手。
主人公が年下の女子大生・花ちゃんに対して思う、とにかく可愛くて可愛くて仕方ない、食べてしまいたいくらい愛おしいという可愛がりの感覚。
自分は女性だからその全てをまま共感することは出来てないのだろうけど、それにしたってこの気持ちはよくわかる。
よくわかるからこそ、その愛情がどんなにいびつで二股かけちゃってようが、どうしても主人公を憎むことが出来ないのです。



丸くてやわらかくてにこにこしていて、とにかく可愛い花。
デート中に中華屋さんの豚の人形を見かけて、「花に似ている」というと小さなポットが湯だったように怒って見せる。頬を膨らますのが愛おしくて、それをからかいながらなだめるやりとりがまた何とも微笑ましい。
もうここの表現だけで、この作品オールオッケーみたいなところがあるとおもったんだよな。




この作品で重要なのは寺内という主人公の同僚なのだけれど、これがまた素晴らしい。
誰かに可愛がられ、誰かを可愛がる、(主人公はその方向を完全に見誤っているけれど)人を愛するということは‘慈しむ’ことの重層なのだと思わされる。



この本を読んでいるといつも、食事がしたくなります。
1人でも、2人でも。
おなかすいたなー。



さすが大御所の長く読まれる短編集、と改めて感じ入ったのでありました。





風味絶佳 (文春文庫)

風味絶佳 (文春文庫)

綿矢りさ「蹴りたい背中」

科学やテクノロジーが進歩すればするほど、それに伴う人間のこころをいかにしていくかという問題になる。
そのときに役立つのが、人文科学なのです。
理系分野が発展すればするほど、本来人文とは発展し必要とされていくものだということを断言します。

というようなことを、大学入学当時の学部長が言っていたのをよく覚えている。
文学は虚学というよくある説を否定するための言葉でもあったのだが、別に技術が進歩しなくても、その言葉の意味を強く感じることが最近よくある。



さびしさは鳴る。
耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。
細長く、細長く。
紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。
気怠げに見せてくれたりもするしね。


綿矢りさ蹴りたい背中」の書き出しは、これ以上も以下もない名文だと思う。
この言い回しにぴったりとはまる感情が、確かにある。
今この自分だけがこの孤独に在るのではないということを感じられるだけで、少し楽になろうとできたりする。



胸を締め付けるという筋肉の動きは、生きているうちにいったい何度あることなのかなー。




蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)

今一度「ナラタージュ」/島本理生

島本理生ナラタージュ」で検索をかけてこのブログに行き着いてくださる方が結構多いようなので、
畏れ多くも再掲。


島本理生「ナラタージュ」 ※核心まで激しくネタバレ - ぶんかけいのひびのきろく


発売から結構経っているし、この記事自体を書いてからも結構経っているのですが、
紹介用リンクから本を購入してくださった方もいらして(初体験ですwありがとうございます)
やはりずっと読み継がれる作品というのは読み継がれるのだなあと。


わたしもちらと読み直しましたが、やはりあの独特の読後感と何ともいえない苦しさにまたやられてしまいました。
読むたびに響く言葉が違うんだけれど、今回は葉山先生の

「ただ、彼と一緒に居るほうが君は幸せだと思ったんだ。
僕はね、いつだって君が心配なんだ。
苦しんだり傷ついたりしないで生きているかどうか。
それが守られるなら僕の独占欲なんてどうでもいいし執着をみせないことを
薄情だと取られてもかまわない。」

この言葉がどーんときました。
薄情でかまわないと言えるほどの気持ちが、どれほど薄情でない愛情だったか。
今ならとても解る気がしたのでした。






ナラタージュ (角川文庫)

ナラタージュ (角川文庫)