今泉力哉「愛がなんだ」

なんと5年以上ぶりの更新です。
5年の間にわたしは働く場所が変わり、少しだけ痩せたり太ったり、心も身体もいつの間にか身軽になったような気がして、そして30代になりました。
昔よりもずっと心置きなく、「今楽しいです」と心底言える気がする。
また好きなものだったり見聞きしたものだったり、書き留めていきたいと思います。 (ていうか何回編集してもこの冒頭部分がお豆腐みたいな□で沢山囲まれてしまうんだけど、これは何なんだ・・・だれか消し方おしえて・・・)
 
ということで、5年越しの一発目に記しておきたかった映画がこれ。
 
 
 
 
愛がなんだ愛がなんだ
  • 発売日: 2019/09/27
  • メディア: Prime Video
 
 
 
 
 
直木賞作家・角田光代の同名恋愛小説を、「パンとバスと2度目のハツコイ」「知らない、ふたり」の今泉力哉監督で映画化。岸井ゆきの成田凌の共演でアラサー女性の片思い恋愛ドラマが展開する。
28歳のOL山田テルコ。マモルに一目ぼれした5カ月前から、テルコの生活はマモル中心となってしまった。仕事中、真夜中と、どんな状況でもマモルが最優先。仕事を失いかけても、友だちから冷ややかな目で見られても、とにかくマモル一筋の毎日を送っていた。
しかし、そんなテルコの熱い思いとは裏腹に、マモルはテルコにまったく恋愛感情がなく、マモルにとってテルコは単なる都合のいい女でしかなかった。テルコがマモルの部屋に泊まったことをきっかけに、2人は急接近したかに思えたが、ある日を境にマモルからの連絡が突然途絶えてしまう。
 
 
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去年観た映画で、総じていちばんに面白かった作品。
キャスト発表の段階でこれは絶対観に行かなくてはと思っていて、何を隠そう、隠さなくても、主演があの、みんな大好き!岸井ゆきのちゃん!
 
わたしはこの頃から
 
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  • 発売日: 2015/01/30
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とても好きな女優さんだったので、ドラマや映画や朝ドラなんかで階段駆け上がってゆく様を観るのは本当に嬉しかった。
 
「愛がなんだ」という映画は、とにもかくにも岸井ゆきのという女優の殺人級の愛らしさだけで成立し得るような作品です。
 
 
 
 
さて。
 
恐らくこの映画を見て序盤の方で大方の人が思う感想、それは
 
「テルコ、それ愛やない。執着や」
 
 
主人公のテルコは、大好きな片思い(とも言い切れないから、テルコは余計熱を上げてしまうんだけど)の相手・マモちゃんのためならとにかく何でもしてしまう。
 
 
 
「それは愛ではなく執着」
というのは、二番手だの不倫だのといった特に訳あり恋愛をしている人に対してよく使われがちな表現ですが、
要するに純粋な愛と、
手に入らないからどうしても相手を手に入れたいと思うこと、
それらにおける奉仕の精神、尽くす手段は同じでも
想いの有り様は似て非なるものだからそんな不毛な恋愛辞めてしまいなさいよ、
ということね。
それは好きだから相手と一緒にいたいんじゃなく、
絶対に手に入らないから手に入れたいと躍起になっているだけで 世の中で言う美しき愛ではありませんよ、の意。
 
 
大方の人はそれを分かりながらこの話を見進めるから、テルコのその尽くしっぷりは見ていてすがすがしいほど痛々しい。なんならホラー。
でも報われない恋愛を経験した人なら誰だって共感してしまうまた別の怖さが、この作品にはある。
 
 
たとえば金曜の夜、もう日も変わろうとする頃合いに突然
「山田さん、メシ食った?」と電話がかかってくれば、
家で今すすり始めたカップラーメンをなかったことにして
「えーー奇遇だなー。わたしも今残業中でおなかぺこぺこなところだよ~。
仕方ないなー、一緒にごはん食べてあげるよっ」
とあたかも`わたしあくまであなたに合わせてるわけじゃないんです、なんなら合わせてあげてるくらいです'状態を装ってひょうひょうと返すテルコ。
でももちろん心の中は喜び満開ハッピーな気持ちなので、お気に入りのお洋服に着替えなおして駆け足で家を飛び出してしまう…。
 
マモちゃんが自分の方を見てくれるためなら、どんな犠牲も嘘も構わない。
というかそんなのテルコからしたら犠牲でも嘘でもなくて、ただただ好きだからやっているだけ。見返りなんて(その時は確かに純粋に)求めてなどいない。
 本人が都合のいい女と思わなければ、それはたぶん都合のいい女ではないのかもしれない。
 
この映画にはそういう、「愛すべき都合のいい女/男」が沢山出てくる。
テルコの親友で、自分に好意を向けるナカハラをただの使いっぱしりのように扱う葉子。
葉子にひどい仕打ちを受けながらも、好きで好きで仕方ないからただ傍にいられるだけでいいというナカハラ 。
マモちゃんだってテルコに対しては自分勝手極まりないけれど、やがて彼女になった(?)スミレさんには同じようなことをされている。
気づいていないのか気づかないふりをしているのか分からないけれど、みんなそういう「執着ゆえの愛情の搾取」をしたり、されたりの主従関係になっているのだよね。
 
 
結局惚れたもんの負け、と言われればそれまでだけれど、
惚れた人に同じ分量だけ惚れてもらうことはそれだけで奇跡に近い。
だからこそ、どんなにそれが一般的に間違っていようがホラーだろうが、
突き抜けるところまで突き抜けてしまえ!いけいけ!やっちゃえ!頑張れテルコ!
と、みんながテルコに自分自身を投影して。
自分が救われなかったかつての恋愛感情をそのまま託すかのように、登場人物ひとりひとりを応援してしまうから、この作品は去年の邦画の中でも大きく入場を伸ばしたのだと思う。
身につまされる、というのがぴったりの映画だった。
 
もちろんそうテルコに思えるのは、何より岸井ゆきのちゃんの愛くるしい魅力に因るところが大きいのであって、マモちゃんのクソっぷりはさすが成田凌!だし(誉め言葉です)
スミレさんなんて江口さん以外演じようがないし、葉子にしろナカハラにしろ、このキャスティングだけで本当に勝利。
隣の部屋の男女の会話を盗み聞くようなスリルをはらんだ、生々しい2人のいちゃいちゃシーンも素晴らしい。
マモちゃんのあの追いマヨネーズのシーン、なんなの…成田凌目当ての女性客全員失神するわ
 
個人的には、今泉監督作品はこういう市井の人々をつらつら描く、みたいな映画の方が好きです。じりじりと、一生懸命に生きる人の美しさ(翻って醜さ)を炙り出していてとても良かった。
 
 
 
最後に、めちゃめちゃ絶妙で、個人的に一番好きだったシーン。
この人はおそらく自分には気はないんだろう、だけどこの感じ、もしかしたらもう少し押したら行けるかもしれない。普段なら絶対できないけど、この状況なら少し大胆に自己PRしてもいいんじゃない、すがったっていいじゃん、付き合えればオールオーケーじゃん、
って勝負をかける瞬間と、その前後の会話。
不毛な恋愛の期待と絶望そのもののようで、見入ってしまった。
あそこで泣いてしまったのは自分だけではないと思う。
どうしてこんなに近くにいるのに、目の前にいるのに、自分のものにはならないんだろう。
そのひりひりした痛みが、「もういいよテルコ、そこまで行ったならとことんやっちゃえよ」と観ている者に思わせてしまう。それがたとえ報復だろうと、好きなだけやっちゃえよ、と。
 
 
いつの日か大人になりきると感じなくなってしまう苦しさに、どっぷり浸かれる愛らしい作品でした。
執着だろうとカッコ悪かろうと、好きなら好きで良いじゃん。愛がなんだ。
 
 
エンディングテーマもすごく良かったので、あわせてどうぞ。
 

 

Cakes

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  • アーティスト:Homecomings
  • 発売日: 2019/04/17
  • メディア: CD