綿矢りさ「蹴りたい背中」
科学やテクノロジーが進歩すればするほど、それに伴う人間のこころをいかにしていくかという問題になる。
そのときに役立つのが、人文科学なのです。
理系分野が発展すればするほど、本来人文とは発展し必要とされていくものだということを断言します。
というようなことを、大学入学当時の学部長が言っていたのをよく覚えている。
文学は虚学というよくある説を否定するための言葉でもあったのだが、別に技術が進歩しなくても、その言葉の意味を強く感じることが最近よくある。
さびしさは鳴る。
耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。
細長く、細長く。
紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。
気怠げに見せてくれたりもするしね。
綿矢りさ「蹴りたい背中」の書き出しは、これ以上も以下もない名文だと思う。
この言い回しにぴったりとはまる感情が、確かにある。
今この自分だけがこの孤独に在るのではないということを感じられるだけで、少し楽になろうとできたりする。
胸を締め付けるという筋肉の動きは、生きているうちにいったい何度あることなのかなー。
- 作者: 綿矢りさ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2007/04/05
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