映画「キツツキと雨」

※いつもどおりネタバレありです(´・ω・`)




2週間ほど前ですが、いってきましたぞ!主題歌が源さん、監督が沖田さん、という知識以外全くのNO予習でいってきた。
あらすじは以下のとおり。

南極料理人」の沖田修一監督が、無骨な木こりと気の弱い映画監督の出会いから生まれるドラマを役所広司小栗旬の初共演で描く。とあるのどかな山村に、ある日突然、ゾンビ映画の撮影隊がやってくる。ひょんなことから撮影を手伝うことになった60歳の木こりの克彦と、その気弱さゆえにスタッフをまとめられず狼狽する25歳の新人監督・幸一は、互いに影響を与えあい、次第に変化をもたらしていく。そして、そんな2人の交流が村と撮影隊の奇妙なコラボレーションを生み出していく。2011年・第24回東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞。


さて、感想をそのまま言うと、すんごいいい映画だった。というより、すんごい好みどストライクな映画だった。久しぶりに、うわあこれはいい、って思いましたぜ。「なんもないようで、なんかある」作品観を描くのが、この監督さんは抜群にうまい。作為的なようで作為的に見せないうまさというか。
輪郭ははっきりとありながらも、色の付け方ははモザイク画や水彩画、みたいな、うーんなんていえばいいのかなあ、補完作業を自然と観ているものに求めてくる(それも決して不快でない、むしろ心地よい)ような様式美。静かに、でも確かにすすむ物語展開がものすごく好きだった。


全体を通して、うすぼんやりとした雰囲気(が良い!!)。日本の郷里を思わせる、美しい野山の風景。でもその撮り方が、「美しい日本の自然・絶景」というよりは 人とほどよく共存しながら未開、みたいな感じなので、ああのどかな田舎なんだなー、っていう印象の方が強くなる。それがまた上手い。
で、その中で、山の男・克さん(役所広司)の存在感がいい。あんなに素敵なおじさまが、ああいうがさつで頑固な田舎のおっちゃんwもやれるとは。さすが名優。感服。存在感だけでなく、愛らしさもある。それはどこかに、観客に父や祖父といった身近な‘おじさん’を想起させる点があるからかも知れない。食事や(慣れない)洗濯の仕方、それから住んでいる家の佇まいなんかがそう感じさせるのかな。その可愛らしさも相まって、開始当初からぞんざいな扱いwを受ける克さんにどんどん感情移入していく。
村の林業に携わる脇役たちも、そんなに長い間画面に出ているわけでないのに愛おしく感じられた。特に伊武雅刀。伊武さんといえばわたくし的にはジェット・ストリームで学生時代に夜間飛行のお供をして頂いた渋い機長なわけですが、そのお方があんなただの作業着着たおっちゃんになっちゃうなんてwwwかわいすぎる。なんともない会話のなんとない温かみが画面いっぱいに広がってくるので、脇役のひとつひとつの動きがきになるきになる。
あと、なんといっても高良くんね!この映画を観る直前まで、友人と高良くんの話をしていて、おひさまのカズさんもユニクロのCMもいいがこの人はやっぱり映画の人だ、とか、あの存在感はなんなのwwwとか散々語っていたので、出てきたときは思わず笑ったw 良い映画に高良あり、ていうか高良あるところに良い映画あり。しかし本当にあの存在感とはなんなのか。眼の力、だけではないよなあ。高良くんの高良くん感wは、スクリーンで絶大に発揮されるのです。やーすごい。


対して、いまどきの若者を演じる小栗旬もうまかった。何が上手いの?って言われると難しいのだけれど、なんていうか、あの、途中までいらっ!とくる感。でも、いっぱしのいまどきの若者wの自分としたらああ確かにわかるわかる、っていう、優柔不断さ(それが我々の世代では往々にして‘柔軟さ’とか‘空気を読もうとする力’と読み替えられる。実際この幸一はそれができていないので、ただのしょーもない若者なのだが)をうまく体現している。
で、そのいらっと感は、小栗旬だけじゃなく、小栗(幸一)サイドの人間みんなに共通して言える。特に幸一の助監督のそれは絶妙。業界の人ならではのよくある身勝手感(彼ら当事者にとってはある種のプロ意識…とも言える…)を見事にあらわしていて、これがまた克さんに対する親近感への襷になっていると思う。実際業界人のステレオタイプでしょこれ、て感じるシーンもままあるのだけれど、そもそも当事者そのものたる映画監督がこれを描いているということを考えると、やっぱり実際あるあるな話なのかもしれない。

ちなみにちょっと脱線するけど、わたしの地元は映画の地方ロケ地としてはそこそこ有名な土地で、よく撮影クルーの皆さんが滞在している噂を聞く。そういうときの地元民の対応というのは、まさにあんな感じw 克さんまでどっぷり浸かっちゃう人はさすがにいないだろうけど、あんな感じであれよあれよとコーディネーターみたいになっちゃう人(それも嫌々ながらも善意でw)はいると思う。あんな感じでラッシュに呼ばれて、あんな感じで菓子折りと記念品貰って、あんな感じでいつの間にか得意げだと思うwww ああかわいい…w


話の概要をひとことで言えば、若者とおじさんの交流が織り成す成長物語。なんだけれども、そういうひとことで表すのが惜しく感じられる。先にも言ったように、成長譚としての筋がきちんと土台としてありながらも、細かなスパイスが絶妙の場所に効いているので観ていて本当に心地よい。思わずくすっとくるコメディ要素、うるっとする人情劇、ぼんやりなようでバックグラウンドがきちんと叩き込まれている人物描写。小道具使いもうまい。激しい感情の起伏はなく、観るものの琴線に穏やかに作用する。じわじわくる。それが、気付いたら話は良い具合にいっていて、とてもあたたかい気持ちになれる。そういう話だった。

たぶんこの作品の根本には、すべて人の優しさがある。前述のとおり、上っ面はいやな感じや、人として欠けてしまった部分、なんかがあるんだけれど、本当にわるいやつは1人も出てこない。この作品は真っ向から性善説の物語で、だからこそ最終的に全ての登場人物に頑張れ!といいたくなる。演出の妙がそれを際立たせ、観るものに静かなしあわせを与えてくれるのだとおもう。まさに雨降って地固まる、という優しいラストは、その集大成。観るものが望むことを、少しひねりながらもきちんと出してくれる。本当に優しい物語だなあと思った。

あのずっしりと重い監督椅子が幸一に似合うのは、もちろんもう少し先の話。でも、あのときの25歳の幸一は確かにあの場所に刻まれたわけで、その刻みを繰り返して幸一は監督としての新たな生涯を積み重ねていくことになる。克さんにつつかれたことでその足跡を確かに残した若者が、足をとられ右往左往しながらも重い椅子を引っ張っては走り、やがて大きくなっていくのでしょう。
というわかりやすいまでのあらすじが嫌味っぽくならないのは、やっぱり日本映画的な(&沖田監督的な)様式美だなあとしみじみ感じた2時間だったよ。
ああそうだ、そういえばこの話には克さんの父親としての成長譚という大事な側面もあるね。それがまた深く心に染み入った。


で、最後の最後に源さんの「フィルム」。これでわたしはだーーーーーーーっと泣いてしまった。ハッピーエンドなのに。すんごいほっこりしてたのに。なんなんだあの涙に関する吸引力は。
南極料理人のあべびーもだし、今回の源さんもだし、沖田監督の映画の音楽センスの良さは異常。この映画も、全編を通して源さん監修だったのかな??エンドロール観てたら、音楽監修に大人計画とカクバリの名前があった。そういうところからしてストライクだったのですよこの映画は。


ところで、南極料理人に引き続き、この作品に登場する料理の数々がとにかくどれもおいしそうなのなんのって!しょっぱなから、あーなるほどこれはあの人だな、と思ったんだけど、確認が取れなかった。この作品のフードスタイリストは飯島奈美さんではないのですか?(´・ω・`)誰かご存知の方がいらしたら是非おしえてください。
おいしそうで味があって日本的なよさがあって、なんていうか登場人物の積み重ねてきた人生を上手に体現する料理だなあと思って観ていた。焼き鮭おいしそうーー!!


総じて、とてもいい映画でした。まだ終わってないのなら、都合が合うのなら、ぜひぜひみなさまに観て頂きたい!
素敵な映画でした。